男性不妊症の原因にもなる精索静脈瘤とは

プレコンセプションケア(若い男女が将来のライフプランを考えながら、日々の生活や健康と向き合うこと)をされている男性に気にかけていただきたい、「精索静脈瘤」についてまとめてみました。当院では日帰り手術が可能です。このコラムで思い当たる症状がある方で、いつかお子さんを検討されている方は、是非一度ご相談ください。
1. 精索静脈瘤とは
精索静脈瘤は、精巣(睾丸)から心臓へ戻る静脈が拡張・蛇行した状態を指します。静脈の逆流防止弁がうまく機能しないため、血液が停滞して陰嚢内の静脈叢(蔓状静脈叢)が拡張します。

-好発部位:左側が約90%以上
→ 左精巣静脈は左腎静脈に直角で流入するため、圧がかかりやすく逆流しやすい構造になっています(詳しくは 「精索静脈瘤発生の仕組み」 をご覧ください)。
2. 発症頻度と背景
- 思春期~成人男性の約15%にみられるとされます。
- 男性不妊症患者では約30〜40%に認められ、不妊との関連が強い疾患の一つです。
- 多くは無症状ですが、陰嚢の違和感や鈍痛、外見上の陰嚢腫脹で気づかれることもあります。
3. 症状
- 陰嚢の「重だるさ」や「引っ張られるような痛み」
- 長時間の立位・運動で増悪、臥位で軽快
- 進行すると精巣の萎縮や左右差が生じることも
4. 診断
① 視診・触診(腹圧負荷)
立位で陰嚢を観察・触診し、さらにおなかに力を入れていきんだ時(腹圧負荷)の静脈の怒張を確認します。
② 超音波検査(カラードプラー)
- 精索内静脈径の拡張(通常3 mm以上)
- 逆流時間(2 秒以上で病的)を確認
③ 重症度分類(Dubin & Amelar 分類)
| Grade | 所見 |
|---|---|
| 0(潜在型) | 触診・視診では不明、超音波でのみ検出 |
| 1 | 腹圧負荷時に触診でわかる |
| 2 | 安静時に触診でわかる(視診不可) |
| 3 | 安静時に視診・触診ともに明らか |
5. 不妊との関係
精索静脈瘤による陰嚢内の温度上昇や酸化ストレスの増加が、以下のような造精機能障害を起こすと考えられています。
- 精子数・運動率の低下
- 正常形態率の低下
- DNA断片化率の上昇(酸化ストレス)
その結果、精液検査異常や自然妊娠率の低下につながる可能性があります。
6. 治療
治療の基本は外科的手術です。薬物療法では根治できません。これまで、高位結紮術、腹腔鏡下結紮術、血管内塞栓術(カテーテル治療)も行われていましたが、現在は顕微鏡下低位結紮術が標準的治療となっています。当院では、2024年10月の開院以降、1年間で118件の顕微鏡下低位結紮術を実施いたしました。この件数は、静岡県内では断トツの1位であり、全国的に見てもベストテンに入る件数です。
① 顕微鏡下低位結紮術(顕微鏡下精索静脈瘤手術)
- 外鼠径輪より末梢で精索を露出し、動脈・リンパ管を温存しながら静脈だけを結紮します。
- 再発率が低く、最も標準的な方法(とくに不妊症治療のでは第一選択)
② 高位結紮術(Ivanissevich法など)
- 鼠径部や腹膜前で静脈を結紮
- 保険適応あり
③ 腹腔鏡下結紮術
- 腹腔鏡を用い腹腔内で静脈を結紮(動脈・リンパ管も一緒に結紮)
- 保険適応あり
④血管内塞栓術(カテーテル治療)
- 放射線科的手技で逆流静脈をコイル等で閉塞
- 低侵襲であるが、再疎通リスクがある
7. 治療の適応
当院では、以下の場合に手術をお勧めしています。
- 精液検査で異常を認める不妊症男性
- 陰嚢の不快感・疼痛がある場合
- 思春期で精巣発育の左右差がある場合
WHOやAUA(米国泌尿器科学会)のガイドラインでも、精液所見が異常な精索静脈瘤男性への手術は、妊娠率の改善を示すエビデンスがあるとされています。
8. 予後
- 手術後3〜6か月で精液所見の改善がみられることが多いです。
- 精子濃度や運動率の改善率は50〜80%程度。自然妊娠率の改善も報告されています。
- ただし、全例が改善するわけではなく、手術適応の見極めが重要です。
- 無精子症で精索静脈瘤を合併している場合、術後に精液中に精子が検出される確率は約20〜40%程度と報告されています。
- 痛みや違和感で手術をする場合、10~20歳代の比較的若い方では症状がよく改善しますが、50歳代以降では改善率が低くなります。
少しでも気になることがあれば当クリニックへご相談ください
男性不妊症の専門医(=泌尿器科医で生殖医療専門医)である今井伸医師が診察から治療・手術までを手がけます。様々な治療オプションから患者さんに最適なプランをご提案します。
